第8章 エネルギー政策とLPガスの未来
我が国のエネルギー政策動向とLPガス
エネルギー基本計画とは
我が国のエネルギー政策の基本方針を定めた法律として、議員立法により、「エネルギー政策基本法」が平成14年6月に制定されました。法律では、その具体的な方針を示した「エネルギー基本計画」の策定を政府に義務付けています。
エネルギー基本計画(第5次計画)
東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、2014年4月、政府は2030年を念頭とした第4次エネルギー基本計画を策定し、原発依存度の低減、化石資源依存度の低減、再生可能エネルギーの拡大を打ち出しました。
第4次エネルギー基本計画の策定から4年、2030年の計画見直しのみならず、パリ協定の発効を受けた2050年を見据えた対応、より長期には化石資源枯渇に備えた超長期の対応、変化するエネルギー情勢への対応などの観点から、同計画の見直しが進められ、第5次エネルギー基本計画が閣議決定(2018年7月3日)されました。
本計画は、2030年の長期エネルギー需給見通し(「エネルギーミックス」/2015年7月経済産業省決定)の実現と2050年を見据えたシナリオの設計で構成されています。
第5次エネルギー基本計画における主なLPガス関連記載(抜粋)
【LPガスの位置付け】
中東依存度が高く脆弱な供給構造であったが、北米シェール随伴の安価なLPガスの購入などが進んでおり、地政学的リスクが小さくなる方向にある。
化石燃料の中で温室効果ガスの排出が比較的低く、発電においては、ミドル電源として活用可能であり、また最終需要者への供給体制及び備蓄制度が整備され、可搬性、貯蔵の容易性に利点があることから、平時の国民生活、産業活動を支えるとともに、緊急時にも貢献できる分散型のクリーンなガス体のエネルギー源である。
【LPガスの政策の方向性】
災害時にはエネルギー供給の「最後の砦」となるため、備蓄の着実な実施や中核充填所の設備強化などの供給体制の強靭化を進める。また、LPガスの料金透明化のための国の小売価格調査・情報提供や事業者の供給構造の改善を通じてコストを抑制することで、利用形態の多様化を促進するとともに、LPガス自動車など運輸部門において更に役割を果たしていく必要がある。
【LPガス産業の収益力向上】
LPガスの国内需要は、1996年度をピークに漸減傾向にあるが、日本企業が扱う海上輸送量は世界全体の約25%を占め世界最大である。さらに取扱量を増やし購買力の強化を図るため、産出国と消費国の関係者が一堂に会する世界最大規模のセミナーを毎年開催し、日本企業のプレゼンスを高めるとともに、カナダや豪州など調達先進国を多角化する事により、我が国のエネルギーセキュリティの向上に取り組むことが必要である。
また、成長著しいアジア地域の需要に対応するため、我が国のLPガス事業者や、LPガス機器製造業の国際展開を推進するために専門家派遣や招聘研修等の国際協力を実施する。
【石油・LPガスの最終供給体制の確保】
LPガスについては、低炭素化の観点からも、熱電供給により高い省エネルギーを実現する家庭用の定置用燃料電池(エネファーム)等のLPガスコージェネレーション、ガスヒートポンプ(GHP)等の利用拡大、電気・都市ガス事業、水素燃料供給事業への進出や、アジアへのLPガスの安全機器の輸出などに取り組むことが求められる。また、過疎化の進行に伴い生じる遠隔地への配送や少子化高齢化アに伴う人手不足に対応するため、共同配送・共同保安の実現による事業効率化、集中監視システムの導入による「認定販売事業者制度」の取得の促進、バルク供給の促進等に向けた方策の検討等を進める。さらに、現在でもタクシーなどの自動車はLPガスを主燃料としており、将来的にはクリーンな船舶用燃料として、運輸部門における燃料の多様化を担うことも期待される。
【石油備蓄等による海外からの供給危機への対応の強化】
LPガス備蓄については、2013年3月に2つの国家備蓄基地が完成し、5基地体制となった。同年8月末には、これら2基地に備蓄するため、米国からシェールガス随伴のLPガスを積んだ第一船が入港した。以来、国家備蓄LPの購入・蔵置を着実に進めてきた。今後も、我が国を取り巻くエネルギー安全保障の観点及び行政効率化の観点を踏まえ、将来の国内需要についても勘案し、現在の国家備蓄・民間備蓄あわせた90日分を堅持するとともに、その効率的な維持の在り方にもついて不断の見直しを行っていく。
【「国内危機」(災害リスク等)への対応強化】
LPガスについては、従来のLPガス輸入基地への非常用電源車の配備に加え、危機時の供給協力を円滑に行う「災害時石油ガス供給連携計画」の不断の見直しを行い、同計画に基づいた訓練を実施するなど、迅速かつ確実な供給体制を整備する。
社会の重要インフラと呼びうる政府庁舎や自治体庁舎、通信、放送、金融、拠点病院、学校、避難所、大型商業施設等の施設では、停電した場合でも非常用電源を稼働させて業務を継続し、炊き出し等で国民生活を支えられるよう、石油・LPガスの燃料備蓄を含め個々の状況に応じた準備を行うよう対応を進める。
【アジアを始めとした世界のエネルギー供給事業への積極的な参画】
LPガスについても、我が国は安全性・利便性を備えたガス機器や保安・販売システムを構築してきており、家庭用を中心としてLPガスの需要拡大が続くアジア地域への技術協力や現地販売企業とのJV方式等による進出により、安全性の向上・利便性の拡大に寄与することが可能である。
国土強靭化基本計画
「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法」が平成25年12月11日に公布・施行されて以来7年が経過した。この基本法に基づき、平成26年6月3日に、閣議決定された国土強靭化基本計画は、近年の災害から得られた貴重な教訓や社会経済情勢の変化を踏まえ、平成30年12月14日に見直され、その歩みの加速化・深化を図ることとされた。
この見直し計画においても、LPガスに関する記載が盛り込まれており、防災・減災面でも引き続きLPガスへの期待が高まっています。
国土強靭化基本計画(見直し)における主なLPガス関連記載(抜粋)
【施策分野ごとの国土強靭化の推進方針(4)エネルギー】
製油所の緊急入出荷能力の強化や、石油製品、石油ガスの国家備蓄量の確保に向けた取組を推進するなど、大規模被災時にあっても必要なエネルギーの供給量を確保できるよう努めるとともに、被災後の供給量には限界が生じることを前提に供給先の優先順位の考え方を事前に整理する。
【~プログラムごとの脆弱性評価結果より~】
・災害時石油供給連携計画並びに災害時石油ガス供給連携計画、系列BCPについて、訓練の実施や、関係者間における優良事例の展開を図ること等によりその実効性を高めるとともに、計画の不断の見直しも行う必要がある。
・石油製品及び石油ガスの国家備蓄を維持していく必要がある。
・製油所設備や高圧ガス設備について、製油所の体制評価を踏まえた設備の耐震強化(耐震・液状化対策、設備の安全停止対策等)や護岸の強化等を進めるとともに、高圧ガスの設備について、南海トラフ等巨大地震を想定した耐震設計基準の見直し検討を進めることにより、設備の耐震化を着実に推進する必要がある。
・再生可能エネルギーやLPガス・灯油等の活用、コージェネレーションシステム、自動車からの各家庭やビル、病院などに電力を供給するシステムの普及促進、スマートコミュニティの形成等を通じ、自立・分散型エネルギーを導入するなど、災害リスクを回避・緩和するためのエネルギー供給源の多様化・分散化を推進する必要がある。
・住民拠点SSの整備や災害訓練等を通じ、災害時に地域のエネルギー拠点となるサービスステーション・LPガス中核充填所の災害対応力の強化を推進する。
総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会
資源燃料政策に係る包括的な報告書の取りまとめ(令和元年7月31日)
本報告書の位置付け
2014年に設置された資源・燃料分科会は、今年で6年目を迎えた。この間で、資源・燃料政策全体に係る包括的な報告書をまとめるのは、2017年に続いて、今回が三回目となる。令和の新時代を迎えた今、足下の状況変化を踏まえた、今後の政策のあり方・道筋を示すとともに、政策担当者、そしてそれぞれの担い手に対して具体的な変革を期待するものとして、本報告書を取りまとめた。
検討の背景
平成が終わり、令和の新時代を迎えた。平成の時代は、バブルの崩壊とその後の「失われた20年」と言われる経済低成長の時代、そして東西冷戦の終結や情報通信技術の発展によりグローバリゼーションが進展した時代であったが、平成の資源・燃料政策もまた、こうした国内外の情勢を色濃く反映したものであった。
石油ショック以降、安定供給の確保に重点が置かれていた石油政策は、1990年半ばになると、バブル経済の崩壊や円高の進行等の経済情勢の変化、国際石油市場の形成を受け、公正な競争原理を確保しつつ、安定供給と効率性のバランスのとれた供給体制の実現が追求されるようになり、石油業法や揮発油販売業法の廃止など、一連の規制緩和が進められた。また、1992年の国連気候変動枠組条約の採択や1997年の京都議定書の採択など、世界経済の成熟に伴い、温暖化対策に地球規模で関心が持たれるようになったのもこの時期である。
2000年代になると、イラク戦争等の中東情勢の緊迫化や、中国をはじめとする新興国の台頭等、国際情勢はますます複雑化する時代を迎えた。こうした中、2004年には石油公団が廃止され、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が設立。2006年には初めて自主開発比率を2030年までに40%程度とするという数値目標が定められ、新たな体制の下、海外での資源確保の更なる強化が推進されることとなった。
さらに、我が国のエネルギー政策に多大な影響を与えることになったのが、2011年に発生した東日本大震災である。エネルギー政策の大前提として「安全性」に重点を置くことが確認されるとともに、災害時も含めたエネルギー供給の重要性、とりわけ燃料サプライチェーンの強靱化について一層その重要性が認識されるようになった。
こうした中、資源・燃料政策を取り巻く環境は、再び大きな転換点を迎えている。とりわけ大きな動きは、環境意識の急速な高まりである。エネルギー、経済成長と雇用、気候変動等に関する持続可能な開発目標(SDGs)を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の国連での採択や、世界全体で今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出量と吸収源による除去量との均衡の達成を目指すとする「パリ協定」の発効により、世界的に脱炭素化へのモメンタムが高まっている。こうした動きは投資家の行動にも大きな影響を与えている。
一方、引き続き我が国の一次エネルギー供給の大宗は、石油、天然ガス等の化石燃料が占めると予想されることに加え、産業活動の基盤となる資源の確保は、今後も国家戦略の要である。
我が国エネルギー政策の要諦は、安全性を前提とし、安定供給、経済効率性、環境への適合を達成する「3E+S」であるが、折しも「令和」の新時代を迎える中、この変化の時代を乗り越え、更にはその先を見据えて資源・燃料の安定確保を実現するため、資源・燃料政策の舵取りが求められている。
LPガス関連記載
Ⅱ.資源・燃料政策を取り巻く国内外の情勢変化
4.頻発する災害 (P5・31行目~P6・4行目)
とりわけ石油及びLPガスは、大規模災害時に電力・ガスの供給が寸断された場合においても、自家発電機や電源車の稼働等により一時的にこれらを代替する機能を持ち、エネルギー供給の「最後の砦」としての役割を有する。昨年9月に発生した北海道胆振東部地震においても、発電所が停止し全道ブラックアウトという状況下において、多くのSSが自家発電機を稼働させて供給を継続するとともに、病院等の重要施設の自家発電機用燃料を配送した。また、LPガスにおいても供給途絶は一切発生せず、LPガス自家発電機を有した避難所や病院等は有効に機能したことから、燃料供給を中心とした災害への備えの重要性が改めて再確認された。
Ⅳ.政策の具体的方向性
2-2.LPガス (P28・1行目~P30・3行目)
(1)背景
- ① 国際LPガス市場
LPガスは、中東依存度が高く脆弱な供給構造であったが、北米シェール随伴のLPガス増産に伴い、米国の輸入シェアは2012年の3%から2018年には70%までに急伸。中東依存度は大幅に低下し、豪州やカナダからの供給も開始され、地政学的リスクが小さくなり、安定した調達環境が構築されている。
また、人口増加や経済成長等を背景にアジアの新興国において急速に需要が増加し、世界全体の需要の50%を超えて、国際石油マーケットにおいて大きな存在感を示し始めている。特に中国は2015年に我が国を抜いて世界最大のLPガス輸入国となった。次いでインドは世界2位の輸入国である。一方、我が国は1996年の1,970万トンを ピークに減少し、2018年は1,420万トンと国内需要は縮小傾向にある。
しかしながら、日本企業が扱うLP ガスの海上輸送量は世界全体の約25%を占め、成長著しいアジア地域を中心に、さらなる取扱量の拡大が期待される。
- ② 国内LPガス市場
我が国のLPガス需要は、人口減少や他エネルギーへの転換、省エネの取組等によって1996年度をピークに減少を継続しており、今後もこうした減少傾向は継続することが見込まれている。また、LP ガス需要の減少とあわせて、小売り事業者等のサプライチェーンも縮小を続け、過疎化、人手不足等への対応が迫られている。
これらの課題対応策として、効率的なインフラ維持と次世代化に向けた「次世代燃料供給インフラ研究会」において、課題解決や産業構造の変化への提言を取りまとめ、LP ガス供給の効率化に向けた取組の検討を進めている。
また、LPガスの価格透明化については、事業者による公表率が76%に達するなど、一定の進展がみられるが、引き続き、事業者・消費者双方に利用料金に関するルールや取引ルールの周知をするなどの施策を講じ、一層のLPガスの取引の健全化を図る必要がある。
- ③ 災害時の役割
災害発生時においても、安定した供給を確保できるLPガスは災害時の「最後の砦」としての役割が期待されている。災害時のLPガス供給のため、全国342カ所に中核充填所を設置し必要に応じて地域内でのLPガス供給を円滑に行えるよう体制を整備するとともに、災害時に避難所となる公共施設、学校、災害拠点病院、矯正施設などの重要施設における自衛的な備蓄、自家発電設備、ガスヒートポンプ(GHP)等の導入を支援している。
また、ガソリン等の不足に備え、LPG自動車などによる輸送用燃料タイプの多様化、分散化も重要である。
(2)具体的施策
- ① LP産業の国際展開
LPガスの取扱量を増やし購買力の強化を図るため、産出国と消費国の関係者が一堂に会する世界最大規模のセミナーを開催し、日本企業のプレゼンスを高める。また、LP ガスのアジア地域におけるエネルギーセキュリティの向上及び価格安定化、保安・安全基準の適正化等の重要性について共有、地域全体で需要側としての地位の向上を目的に、アジア各国のLPガス政策担当者が会する場を設置する。
さらに、我が国のLPガス事業者や、LPガス機器製造業の国際展開を推進するために、専門家派遣や招聘研修を通した安全に係る人材育成等の国際協力を実施する。
加えて、IMOによるSOx規制に対応したLPガス船舶及びバンカリングの整備の進展に応じた支援を行い、海上輸送力の強化を図る。
- ② 効率的な供給体制
国内市場における過疎化、人手不足等の課題を克服し、燃料供給インフラとしての持続を可能とするため、集中監視システム等の有効活用による過疎地域への持続的な供給体制の確立や、保安エリアの拡大を可能とする制度の柔軟化の検討、より多くのLPガスを貯蔵できるバルク貯槽による安全かつ効率的な供給システムなど実現するため、検査内容等の効率的な安全確保の在り方等の対応策について、保安当局と連携を進め、保安規制の見直しや技術実証のための取組を進めていく。
また、低炭素化の観点からも、熱電供給により高い省エネルギーを実現する家庭用の定置用燃料電池(エネファーム)等のLPガスコージェネレーション、ガスヒートポンプ(GHP)等の利用拡大、電気・都市ガス事業、水素燃料供給事業への進出が期待される。
- ③ 災害対応力の強化
中核充填所について、災害時の供給拠点として必要な機能を随時見直すとともに、災害発生を想定した訓練を全国9ブロックごとに毎年開催し、その結果を踏まえ、災害発生時の連携における課題の洗い出しと見直しを進めることとしている。また、災害時にも供給が途絶えることが無い様、サプライチェーンの災害対応能力を再点検するとともに、必要に応じて強靭化を図る。さらに、緊急配送の規制緩和等に取組むこととしている。
新国際資源戦略(2020年3月30日)
概要
2019年7月に取りまとめられた資源・燃料分科会報告書において、資源・燃料政策を取り巻く環境が大きく変化する中で、エネルギー政策の要諦たる「3E+S」原則の下、新しい国際資源戦略を早期に策定する必要性が示されました。
その後、資源燃料分科会及び石油・天然ガス小委員会・鉱業小委員会 合同会合が開催され、2020年年2月に、資源燃料分科会からこの戦略の具体的方向についての提言がありました。
当該提言を踏まえて、新国際資源戦略(案)を作成し、令和2年3月12日から3月25日までの間、意見を募集した結果、16件の意見がありました。
今般、提出された意見及びそれに対する経済産業省の考え方、意見を反映した「新国際資源戦略」を策定しました。
LPガス関連記載
Ⅱ.石油・LNG等のセキュリティ強化
2.対応の方向性
(6)国際LPG市場の拡大(P7・31行目~P8・2行目)
LPG は災害に強い分散型エネルギーであり、平時においても国民生活にとって必要なエネルギーである。近年、日本企業が扱うLPG 海上輸送量は増加し、世界全体の約25%を占め世界最大となっている。今後、需要の伸長が著しいアジアでさらに取扱量を増やし購買力の強化を図るためには、LPG 市場における我が国のプレセンス向上やアジア市場の着実な拡大が必要。このため、各国の政策担当者の会合の開催や専門家派遣等を実施する。
「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令」等の制定
●「液石法施行規則及びその運用・解釈通達」の一部を改正
(公布:平成29年2月22日 施行:平成29年6月1日)
●「液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針(ガイドライン)」
(公布・施行:平成29年2月22日)
「石油の備蓄の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」の制定
(公布・施行:平成29年12月4日)